臨床研究の違い

こちらに来て、その研究システムで驚いたことの1つは、
「臨床研究を、医者じゃない人達がしている」ということです。

日本では、臨床研究はすべて医者がします。

医者が、忙しい日常業務の合間に、患者や健常ボランティアを探し出して、承諾をとって、データを収集して、
日中は、外来・手術・病棟に追われているので、夜や週末にデータを解析して、学会で発表して、論文にして、、
ということを、全て医者だけでしています。
よって、どうしても研究は後回しになりがちで、すばらしい研究がお蔵入りになっている人も多いと思います。

例えば長崎にいたころは、ボランティアの人達100人以上に手紙を書いて送り、回答者に電話して日程を調整し、
土日に病院に来ていただいて、同意書をとって、WOMACをとって、X線やMRIを自分達で撮影し、結果を説明して、、
週末は、研究か学会か当直で潰れていたことが多かったと思います。

しかしアメリカでは、医者じゃないPhDの人達が、基礎研究だけでなく臨床研究もしています。
例えばこの教室では、工学部卒の研究者が、医師の協力の元に病院で患者をリクルートし、撮影やデータ解析をしています。
すべて日勤帯で行っており、夜や週末を費やすということはありません。論文には、協力した医師の名前も乗ります。

さらに違いは、患者やボランティアを探したり、撮影の日程を調整したりする専門の職員がいることです。
当教室では2人ほどそういった職員がいて、患者に電話をかけてアポイントをとったり、
新聞に参加者募集の広告を出したりもしています。
僕の日本での経験では、この作業が一番面倒で、これをしてくれる人がいるというのは非常に助かります。

さらに日本と違い、研究に参加してくれた人達に、謝礼を渡すことができます。健常ボランティアを収集する際に有用です。
金額は研究内容によって様々で、聞いたところ、例えば足関節CT撮影をさせてもらうのに1回10〜15ドルとかで、
学生なんかが、1000円のお小遣いが目当てで参加したりします。

これらの違いは、もちろん財力の違いですが、システムの違いでもあります。

なぜなら、日本の研究費は人件費や謝礼に使用できなかったり、しにくかったりするからです。
例えば250万円の研究助成を当てたとして、研究補助員をパートで雇いたいので
100万使いたいと思っても、多くの研究助成ではできないと思います。
以前それに近いことを試みたことがありましたが、結構面倒なことになりました。

アメリカの場合は、教授が助成金を当てて、そこから研究員やコーディネーターの給料を出して雇っているので、
教授の仕事は、毎年ひたすら助成金を申請して当てることです。そして計画を遂行して次の助成につなげることです。
自ら研究をすることはなく、ミーティングでああしろ、こうしろというのが仕事です。

しかし、このシステムが全て正しいとは思えず、やはり自分で患者と接したり、
画像を撮影したりしていて、初めてわかることや、思いつくこともあります。
また、アメリカのシステムでは、研究は助成金(=給料)の獲得のためにあり、本質から外れている部分もあり、
日本の方が、臨床研究のほとんどは助成金もないわけで、現場から発生した患者の為になる研究が生まれやすい側面もあります。

(この写真、わかりにくいですが、ボランティア募集の広告で、学内の掲示板に貼っていました)
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— posted by 千葉恒 at 01:49 pm   commentComment [0]  pingTrackBack [0]

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