トランスレーショナル

僕の所属するラボは、30人ほどの大所帯で、
画像・バイオメカ技術を用いた骨関節疾患のTranslational Researchをしています。

「トランスレーショナルリサーチ」とは、基礎研究で開発された新技術を、
臨床現場で患者さんに応用することを目的とした研究です。
日本語では「橋渡し研究」という、何ともダサい感じで訳されています。

僕のラボは、工学系の基礎研究者(PhD)が7割、医師(MD)が3割
ぐらいで構成されていて、今朝の定例の全体ミーティングでは、
PhDのMRIシークエンスプログラマーが、新しい研究の発表をしていました。

いつも感じることですが、日本との大きな違いは、

1)PhDが主体となってTranslational Researchをしている。

想像しにくいかもしれませんが、例えば、整形外科教室に100人のMDがいて、
それに加えて、同じ教室内に、計100人ほどの、PhD(生物系、工学系、
理学療法系など)とコーディネーターやアシスタントが所属している感じです。

彼らPhDが、新技術を臨床の患者さんに応用して、
データを集めて論文を書く、ということをしています。
MDは、TranslationalよりClinical Researchを主にやっている印象です。

ミーティングでPhDが最もわかっていないと感じることは、
この研究が、臨床的にどんな意味があるのか?役に立つのか?ということです。
PhDの人達は、ビックリするぐらい臨床のことを知りません。

MRIのスペシャリストと、臨床の腰椎MRI像を一緒に見たことがあるのですが、
彼は解剖も知らなければ、所見も読めず、僕が全部教えてあげました。
MRIの難しいことをこんなに知っているのに、ヘルニア一つ読影できないわけです。

この土壌は時として、臨床的価値のないTranslational Researchを生み出します。
基礎研究は、臨床的に無意味でもいいのです。種ですから。
しかし、臨床的価値のないTranslational Researchほど、たちの悪いものはありません。

日本では、製薬会社や医療機器企業と共同開発した新技術を、
MDが主体となって、Translational Researchをすることが主流です。
MDの負担は大きいけれど、MDは臨床的意義を追求する傾向があるので、
僕は、このやり方にもいい面があると思っています。

2)研究費がおりないと、研究を始めれない。

ミーティングの後半は、財源、つまりグラントをどう取るかの議論でした。

アメリカでは、MRIやCTの使用料、整形外科医、PT、コーディネーターなどの
スタッフに払う費用、参加する患者への謝礼金など、すべてにお金がかかるので、
財源もなく、とりあえず始める、ということができません。

よって、新しい研究を始めるまでに時間がかかりますし、
面白い研究であっても、グラントが通らなければスタートすらできません。

日本だったら、上記の費用は不要なので、とりあえずデータ収集を開始できます。
これも、実は日本の方がいいと思われる点です。

基礎研究や、新薬・インプラントの治験などにおいては、
色んな面でアメリカの環境が優れているように見えます。
しかし、僕のやっている、画像やバイオメカのTranslational Research
においては、日本の方が有利かもしれないなと、最近、感じています。

— posted by 千葉恒 at 02:06 pm   commentComment [0]  pingTrackBack [0]

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